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システム要件

まずデータ駆動型遺跡統合への対応として,ある資料と別の資料とを照合した結果を記述する機能を実現した.データ駆動型遺跡統合では,地図と地図,写真と地図,写真と写真のように複数の資料を照合する作業が,研究の基本的なステップとなる.そして,遺跡の同一性や関係性の解釈など,照合に関するエビデンスを記録することが研究成果の重要な部分を占める.そこで地図や写真などの情報単位を「カード」として整理し,さらに複数の資料に由来するカードを照合した結果を「照合カード」として新たに作成できるようにした.

次にIIIFへの対応として,IIIF Curation Platform (ICP)を活用することとした.まずIIIF Curation Viewerを用いてIIIF形式の画像の一部を切り取り収集(キュレーション)する.次にJSONkeeperとCanvas Indexerを用いて,IIIF Curation Viewerで収集したキュレーションをサーバに保存し整理する.さらにその結果をIIIF Curation Finderから一覧し検索できるようにする.このように,すでに構築済みのICPをそのまま活用することで,IIIF形式で公開される様々なシルクロード資料から写真や地図などの図版を収集し,照合に活用できる仕組みを構築した.

最後に,これらの機能をプラットフォーム化するために,学術データの公開に適したオープンソースのウェブ出版プラットフォームOmeka Sを採用した.Omeka Sはメタデータの管理を行う豊富な機能を有し,モジュールによって機能を拡張する柔軟性も備えている,そこでOmeka SとICPを接続するモジュールをいくつか追加開発し,ICPで構築したキュレーションを,内部的にCSVに変換してインポートできるようにした.さらにカード型の情報単位を扱うための追加モジュールを開発し,これによりシルクロード遺跡データベースの機能を実現した.

カードを単位とするデータスキーマ

シルクロード遺跡データベースで用いるカードは以下の6種類である.

1. 地名カード(Place Card)

地名カードとは,遺跡データベースに出現する場所に関する情報を記録したカードである.DSRではシルクロード地名集をすでに公開しており,そこには地名とその識別子や緯度経度などがまとめられている.これをハーベストする機能をOmeka S上に構築し,地名カードを外部から自動更新できるようにした.スタイン・ヘディン・黄文弼らの古地図に含まれる地名については,古地図上の位置情報を保持するが,地図が存在しないドイツ隊地名と,位置情報が附与されていない現代中国の報告書である『西域文物考古全集』地名は,位置情報を有しない.さらに現代の地名に対応するDSR地名なども登録し,すでに約24,000件の地名カードを登録済みである.

2. 地名照合カード(Place Matching Card)

地名照合カードとは,2つの地名が同一の実体を指すことを示すカードである.地名の綴りが同一でなくても,名寄せや場寄せによって同一の実体と判断できる場合は,照合エビデンスとともに作成する.また場寄せに関係するツールとして,既に位置合わせツールMappinningが存在するが,将来的にはこれもシルクロード遺跡データベースに統合する計画である.

3. 画像カード(Image Card)

画像カードとは,デジタル化された史料の一部を切り抜き,メタデータを付与したカードである.IIIF Curation Viewerのキュレーション機能およびメタデータ付与機能によって,任意のIIIF資料から画像カードを作成できる.また写真でつなぐシルクロードでは,過去の調査データにメタデータ(撮影場所・内容・地名等)を付与して整理しているが,これを新たにIIIF化してシルクロード遺跡データベースに取り込めるようにした.さらに画像データが蓄積されたCanvas Indexerをハーベストする機能をOmeka S上に構築し,画像カードを外部から自動更新できるようにした.

4. 画像照合カード(Image Matching Card)

画像照合カードとは,2枚の画像カードの画像を重ね合わせ,同一の場所を撮影していると判断できる場合には,照合エビデンスとともに作成する.画像の重ね合わせには画像比較ツールvdiff.jsを用いており,2枚の画像の自動重ね合わせや手動での重ね合わせ修正機能なども活用できる.

5. 文献カード(Reference Card)

文献カードとは,遺跡に関連する文献情報を記するカードである.Omeka Sのモジュールとして公開されているZoteroインポートモジュールを活用し,Zoteroに登録した文献情報をAPIで取得する.ZoteroにはDOIが付与された資料の文献情報を簡単に取得する機能があるため,『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブなどDOIが付与された資料に対しては,文献カードを簡単に作成できる.

6. 遺跡カード(Ruin Card)

遺跡カードとは,上記すべてのカードの情報を統合し,遺跡としての識別子と「統一名称(代表名)」を付与するカードである.シルクロード遺跡データベースの利用者から見れば,データベースへの入り口となるのが遺跡カードである.そこから各種の情報の照合に利用されたエビデンスを参照しつつ,各種の史料を探索するというナビゲーションを想定する.

地理情報

シルクロード遺跡データベースのナビゲーションとして特に重要なのが地図である.シルクロード遺跡データベースの入口となる地図表示には地名カードや遺跡カードなどが一覧表示されている.また,すでにDSRで構築したタイル版シルクロード古地図も組み込み,現代地図と古地図を切り替えて遺跡マーカーの背景地図として表示できるようにした.利用者は地図を使って,特定の地域にズームインしながら必要な情報を絞り込むことができる.

地理情報の充実に向けて,画像カードのメタデータに地名カードの識別子を入力すると,地名カードと画像カードを自動的にリンクする機能を備えたOmeka Sのモジュールを新たに開発した.そして,IIIF Curation Viewer上ではメタデータに地名識別子を入力,また「写真でつなぐシルクロード」では写真の撮影地に対応する現代地名(DSR地名)の識別子を網羅的に入力した.

参考文献

  1. 西村 陽子, 北本 朝展, "カード単位の照合エビデンスを共有するシルクロード考古遺跡情報の統合データベース", 人文科学とコンピュータシンポジウム じんもんこん2021論文集, pp. 146-153, 2021年12月
  2. 西村陽子, 富艾莉, 北本朝展, "重識絲綢之路上已発掘古代建築的新方法", 高昌遺珍:古代絲綢之路上的木構建築尋踪 56-69 2021年8月
  3. 西村陽子, 北本朝展, "黄文弼地図与欧洲探険隊地図 ——兼及黄文弼所蔵地図調査報告", 西域文史 14 19-47 2020年6月
  4. 西村 陽子, 北本 朝展, 張 勇, "木頭溝的摩尼敎=仏教寺院:絲綢之道遺址数拠庫的建立与遺址核対的深化", 馬可・波羅与10-14世紀的絲綢之道, pp. 172-189, 2019年6月
  5. Yoko NISHIMURA, Erika Forte, Asanobu KITAMOTO, "A new method for re-identifying ancient excavated structures on the Silk Road: the case of Kocho", The Ruins of Kocho: Traces of Wooden Architecture on the Ancient Silk Road, pp. 59-68, 2016年12月
  6. 西村陽子, 北本朝展, "絲綢之路遺址之重新定位与遺址数拠庫之建立", 陝西師範大学学報(哲学社会科学版) 45(2) 76-86 2016年3月
  7. 西村 陽子, 北本 朝展, "地図史料批判に基づくシルクロード都市遺跡・高昌故城の遺構同定", 人文科学とコンピュータシンポジウム じんもんこん2014論文集, pp. 43-50, 2014年12月
  8. 西村 陽子, Erika Forte, 北本 朝展, 張 勇, "古代城市遺址高昌的遺構比定:基于地図史料批判的絲綢之路探険隊考察報告整合", 西域文史, Vol. 9, pp. 153-197, 2014年12月
  9. 西村陽子, 北本朝展, "高昌故城調査の統合による探検隊調査遺構の同定―地図史料批判に基づく都市遺跡・高昌の復原―", 『高田時雄教授退職記念学術論文集』 日英文分冊 181-196 2014年6月
  10. 西村 陽子, 北本 朝展, "スタイン地図とGoogle Earthを用いた名寄せと場寄せに基づくシルクロード探検隊調査遺跡の解明", 人文科学とコンピュータシンポジウム じんもんこん2010論文集, pp. 255-262, 2010年12月
  11. 西村 陽子, 北本 朝展, "和田古代遺址的重新定位--斯坦因地圖與衛星圖像的勘定與解讀", 唐研究, Vol. 16, pp. 154-204, 2010年12月
  12. 西村 陽子, 北本 朝展, "スタイン地図と衛星画像を用いたタリム盆地の遺跡同定手法と探検隊考古調査地の解明", 敦煌写本研究年報, Vol. 4, pp. 209-245, 2010年3月

研究費

  1. シルクロード遺跡の再発見:デジタル史料批判に基づく遺跡照合と地理学情報基盤の構築
  2. 地図史料批判に基づくシルクロード探検隊資料の統合と遺跡データベースの構築
  3. デジタル史料批判:エビデンスベース人文情報学のための連結指向型研究基盤

新着情報

2022年11月17日
DATABASE OF SILK ROAD RUINS(英語版)を公開しました。
2022年10月31日
システムとデータを更新しました。従来から運用していたマッピニングを遺跡データベースに統合するとともに、シルクロード地名集も内容を大幅に修正して地名数が24,139件となりました。
2022年1月28日
カード単位の照合エビデンスを共有するシルクロード考古遺跡情報の統合データベースが、人文科学とコンピュータシンポジウム「じんもんこん」2021の最優秀論文賞を受賞しました。
2021年12月10日
シルクロード遺跡データベースを公開しました。