「京都古写真ハンティング」は、国立国会図書館が公開する関西の古写真「写真の中の明治・大正(関西編)」、および立命館大学アート・リサーチセンターが公開する古写真「近藤豊写真資料(β版)」(京都府立総合資料館所蔵)を対象に、モバイルアプリ「メモリーハンティング」を活用して、古写真の撮影地をみんなで探すイベントです。2015年2月に開催した東京古写真ハンティングの京都版となります。
震災と戦争で大きく破壊された東京とは異なり、京都には古い景観が今もなお多く残るとはいえ、全体的に見ればこの100年間で景観は大きく変わりました。100年前に撮影された写真はどこで撮影されたものなのか、すでにわからないものも増えています。しかし、撮影地が確定できれば現在の景観との比較ができるようになります。そして、何が変わって何が変わらないのかを分析できれば、歴史や文化などの研究に幅広く役立ちます。
そこでメモリーハンティングアプリを使って、みんなで撮影地を探します。このアプリはカメラのファインダー上に古写真を半透明で表示することにより、同一地点かつ同一構図の写真を撮影して共有できるだけでなく、撮影時のGPS情報から撮影地を推定することもできます。さらに、写真の構図を合わせるために風景を注意深く観察するようになるため、景観の変化に関する理解が深まるという効果もあります。
なお、写真が撮影されたおよそ100年前と現在との景観の変化があまりに大きいため、現在の地図を見るだけでは場所を特定することが難しい場合があります。そのためアプリからも、以下の古地図を参考地図として使えるようにしました。
13:00 | 集合 産業会館前の阪急地下鉄の出入口付近(四条烏丸西入の南側) |
---|---|
13:00-16:00 | 古写真ハンティング(四条烏丸⇒烏丸御池⇒二条を徒歩で移動) |
16:00-17:00 | 意見交換会(立命館大学 朱雀キャンパス) |
今回の参加者は7名。全員Androidスマホまたはタブレットを確保しての参加となりました。ただ、一部のタブレットはWifiでの接続となり、多少のトラブルがありました。四条烏丸交差点で写真を撮影しながらアプリの簡単な使い方を説明しましたが、皆さんそれなりに勘でマスターしていったようです。でも本当はきちんと説明した方がいいはずで、このあたりはまだ試行錯誤なところです。
今回の参加メンバーは写真を提供いただいた機関の方々で、その意味では非常に強力なメンバーでした。写真を使って研究している人もいるため、むしろ私が写真の読み解き方を教えてもらいながら、京都の町を案内していただくような形になりました。特に祇園祭に関係する写真については、事情を深く知っていないと気付かない目のつけどころがたくさんあります。このように優れたガイドの方に案内していただくと、マニアックな街歩きも楽しくなりますが、これはまさに写真を使った「ブラタモリ」ですね。
やがて、路地に入って写真を合わせる時、どの点に注目すべきかという話になりました。最初は建物に注目してみましたが、だいぶ変化しているようで、当時と現在とで一致する場所を見付けるのは難しいようです。そこで注目したのが電柱の位置です。電柱はそれほど大きく動くことはないと考えられるため、電柱の位置を見ながら合わせるのがよさそうです。狭い道路で何人もが同じ方向にスマホを向け、やや交通の邪魔になってしまいました。
その後に撮影した地点は、宗教建築や洋風建築が主となりました。宗教建築は同じ場所に変わらず残っている確率が高いですし、洋風建築も積極的に保存を進めている建物は当時の姿をよく残しています。ただ、たとえ建築がよく残っていても当時と同じ写真を撮影できるわけではない、というのが興味深いところです。例えば、撮影者が撮影したと思われる地点に行ってみると、そこには新たな建築物ができており、同じ場所に立つことはできない場合がありました。つまり、建築そのものは変化しなくても、その周囲が変化することによって、同一構図の写真は撮影できなくなるのです。このような変化は写真を見るだけではわからず、実際に自分で撮影を試みて初めてわかるというところが、メモハンの面白いところです。
この面白さは、実はメモハンの中心的コンセプトの一つである「撮影者の再体験」に対応するものです。メモハンは、同一地点、同一構図の写真を撮影するためのアプリと説明してはいますが、実はそこで重要となるのが撮影者の姿勢の再現なのです。つまり、過去の撮影者と同一の姿勢を取ることによって初めて同一の写真が撮影できる、というのがメモハンを理解するためのキーポイントです。逆説的な言い方をすれば、メモハンは写真を再現しているのではなく、撮影者を再現していることになります。そして、写真に痕跡として残っている撮影者に関する情報を、メモハンによる撮影を通して引き出すことによって、撮影環境の変化という「写真では見えない」変化も間接的に推測できるようになります。過去の撮影者は撮影できたのに、現在の自分は撮影できない、ということ自体が景観を読み解く情報として使えるというのが、メモハンのユニークな特徴と言えます。
最後は二条城を訪ねました。東大手門が目的地でしたが、改修中のため比較はできませんでした。ただしよく見てみると、東大手門の前には、当時も現在も石柱が立っていることに気付きました。おそらくこれは当時と同じ場所にあるのでしょう。また、東南隅櫓を撮影した写真を現在の景観に合わせてみると、松の木の形があまり合いません。ただし後日確認してみたところ、写真はやはりこの櫓の景観のようで、植生などが変わったのかもしれません。建物の写真なのに植生の変化などにも目が止まるという点は、メモハンによって景観を読み解く力が広がる体験が味わえるという点に関する一つの事例とも言えるでしょう。
その後、立命館大学朱雀キャンパスでイベントを振り返ったあと、近所のバルに繰り出して一杯飲みました。四条烏丸から二条まで、京都の人も普段は歩かないような長距離コースとなり、よく運動した後のビールはうまかったです。
アンケートで得られた意見をいくつかご紹介します。
「メモリーハンティング」はAndroidアプリです。今のところiOS版はありません。Androidスマートフォン非所持者は、所持者とチームを組んでハンティング体験する計画ですが、応募多数の場合は、Androidスマートフォン所持者を優先するかもしれません。
申込締切は4月23日(木)、参加者数は10名程度を考えています。