DSRアウトリーチ - シルクロード画像探検

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アカデミーキャンプ2011~福島のこどもたちに伝えたかったこと

2011年08月17日

プロジェクト結のアカデミーキャンプ第一期に参加したみんな、キャンプは楽しかったかな。ぼくが君たちと会ったのは8月11日の遷画(せんが)~シルクロードワークショップの間だけだったけど、絵はがき作りに熱中する君たちの姿を見て、来てよかったなぁと思った。

ワークショップでは3人~4人のグループに分かれて、12枚の絵はがきを作ったね。タイトルもいろいろ。「古代の動物」「丸だらけ」「アカデミー遷画」「ニヤを集めた」「龍、竜、流」「そっくりさん大集合!」「さまーきゃんぷ」「色々」「動物シリーズ」「人間」「神様を囲った私たち」「トルファン」、それぞれ興味の違いが見えて面白かった。そうそう、ベストアイデア賞はそっくりさん大集合!かな。目の付け所がすばらしかった!

さて、ワークショップでは時間がなくなってしまって最後にお話できなかったんだけど、このワークショップの目的は絵はがきを作ることだけではなくて、絵はがき作りを通して伝えたかった言葉が2つあるんだ。遅くなってしまったけど、せっかくの機会なので、このブログにまとめておきたいと思う。

ぼくが伝えたかったのは、ちょっと難しい言葉かもしれないけど「多様性」と「独自性」という2つの言葉だ。

まず「多様性」だけど、これは世界にはいろいろな考え方があるし、そのことこそが重要だという意味だ。シルクロードの説明で「シルクロードを文化が伝わるうちに少しずつ変わっていった」という話をしたよね。ヨーロッパの天使とアジアの天女は、見かけがだいぶ違う。もしヨーロッパの天使が「正しい」と考えれば、アジアの天女は「間違い」になってしまう。でも、そうではないよね。両方とも、それぞれに美しく、異なる価値を持つものだ。

文化が伝わる様子は「伝言ゲームみたい」と誰かが言っていたけど、確かにそういう面もある。例えばヨーロッパの天使を誰かが見たとする。あれ好きだから、自分もまねしてみようかな、なんて思う。でも、その「まね」というのはそのままなぞることではない。自分の頭で天使がどういうものかを覚えて、それを後で自分で思い出しながらかくということだ。まさに伝言ゲームみたいだよね。それに、売り物として絵をかく人がいれば、「こうやった方が売れる」と工夫する(=勝手に変えてしまう)かもしれない。そうして、少しずつ元と違ったものができるけど、よいものにはどれも違った価値がある。そういう異なる価値を認めていこうというのが多様性の考え方だ。

今回のワークショップでも、それぞれのグループが異なる絵はがきを作ってくれた。みんなが使える画像は同じだったのに、できた絵はがきには一つとして同じものはなかったよね。また一つの画像に対しても、あるグループはそれを動物の画像と見たり、あるグループはそれを丸いものの画像と見たり、いろんな見方ができることがわかった。さすがに壁画の人物を「マツコ・デラックス」に見立てたのには驚いたけど、同じ絵でもいろんな見方ができるんだな、ということは感じてくれたと思う。

ただし、いろんな考え方があるんだなと感心するだけでは不十分。次は「独自性」だ。自分が作った絵はがきは他の絵はがきとどう違うんだろう、ということを考えて欲しい。そこに自分と他人との違いが見えてくる。もしかすると、他の絵はがきの方がよく見えるかもしれないね。そう、確かに絵はがきにも良し悪しはある。でも、これはテストみたいに、0点から100点という一つのものさしで良し悪しが決まるものではなくて、むしろたくさんのものさしがあると言った方がいいかもしれない。だから自分なりのものさしを見つけていってほしい。自分の絵はがきはこんなところが良いんだよ、とみんなの前でも言えるように。

君たちはまだ小学生。これから人生は広がっていく。そしてその人生において、君たちは特に、いろいろな意見を耳にすることが多くなると思う。異なる意見を聞くうちに、何が正しいのか、自分でもわからなくなることがあるかもしれない。そんなときには思い出そう。人々の考え方は一つではなくて多様なんだと。もちろん明らかに間違った意見は聞く必要はないけど、それぞれに正しそうな複数の意見があって、どちらが正しいか決められないことも世の中にはある。まずは、世の中にはいろんな考え方があるんだなぁ、と受け止めてみよう。

でもそれだけでは不十分。では自分ならどう考えるのか、という自分なりのものさしを持ってほしい。とはいえ、それはかなり難しいこと。大人だって、それができる人はそんなに多くはない。いろいろ勉強しなくちゃいけないことがたくさんあるからだ。大変だよね。誰かが「これが正しい意見だ」と言ってくれたら、どれだけ楽なことか。でも、そう言ってくれる人を待っていると、他人の意見に振り回されてしまうかもしれない。それはそれで困る。だから大変だけど、最後は自分で考えることが大事なんじゃないかと思う。もちろん君たちが自分で考えるための手助けは、ぼくたちもできるだけ続けていきたいと思っている(例えばココ)。

今回のキャンプで作った絵はがきは、みんなの「多様性」とあなたの「独自性」を示すもの。いつの日か遷画~シルクロードを見つけたとき、そういえばあの夏、御殿場でシルクロードの絵はがきを作ったな、と思い出してくれたらうれしい。

遷画アウトリーチ活動記録

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  2. 遷画って何だろう? - 2009年04月01日
  3. 「遷画」せんがって読むんですよね??? - 2009年04月15日
  4. ワークショップに向けて準備中です - 2009年05月16日
  5. 壁紙つくってみませんか? - 2009年06月11日
  6. おもしろツアー紹介 その1 - 2009年07月30日
  7. おもしろツアー紹介 その2 - 2009年08月16日
  8. 第6回ワークショップコレクション出展決定!! - 2010年01月18日
  9. ワークショップコレクションレポート1 ~開始まで! - 2010年03月05日
  10. ワークショップコレクションレポート2 ~いよいよ開始! - 2010年03月11日
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  12. 東洋文庫ミュージアムで「遷画~ワークショップ」を開催しました! - 2011年06月16日
  13. アカデミーキャンプ2011~福島のこどもたちに伝えたかったこと - 2011年08月17日
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