プロジェクトの概要

プロジェクトの概要

過去から現在までに調査収集された膨大な文化資源を、劣化しない形で永久に保存し未来に継承していきたい。また、そのような文化資源へのアクセス性を高めることによって、多くの人が文化資源を活用できるようにしたい。

ディジタル・シルクロード・プロジェクト(Digital Silk Road Project)は、情報技術と文化研究を融合することによって、こうした目標を実現することを目指しています。すなわち、実物の文化資源のディジタル化に始まり、デジタル・アーカイブの構築、ネットワークを用いたデジタル文化資源の公開、共同作業によるデジタル文化資源への注釈づけなど、多岐にわたる項目に関する研究を進めていく計画です。

当然のことながら、このような大きな問題は、情報学の専門家のみでは解決できません。そこで国立情報学研究所では、いろいろな学問分野における国際共同研究を積極的に進めていくことを考えており、実際に複数の国際機関や国内外の大学との共同研究プロジェクトが進行しています。

今後はこのようにして得られた研究成果をネットワーク上で積極的に公開することにより、研究成果を社会に還元していきたいと考えています。また、シルクロード地域は、現状では必ずしも情報技術の先進地域ではないことから、そのような地域からもデジタル文化資源にアクセスできるような仕組み、例えばデジタルアーカイブに関する教育・訓練などを考えていくことも、重要な課題です。

2015年成果報告

国立情報学研究所が推進するディジタル・シルクロード・プロジェクトは,2001年にユネスコとの協力により,文化とデジタル情報技術の融合による新たな視点でのシルクロード研究と文化遺産保存を目指して開始したプロジェクトである。2003年には科学研究費成果公開促進費に基づく財団法人東洋文庫との共同研究が始まり,今年で開始から14年目、「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」作製12年目を迎える。

活動状況:現在のプロジェクトの主要テーマは①「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」に収録するシルクロード探検隊報告書の充実、②デジタル化した資料を用いた人文科学研究への新しいアプローチ方法の研究である。本プロジェクトの概要は本誌第24号に掲載されている。

①「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」は、東洋文庫が所蔵しており、シルクロード研究者が必要とする基礎資料で、一般的には閲覧が困難な貴重書をイン ターネット上で多言語インターフェイスを用いて全文無償提供することで、学術基盤データベースを作成することを目的とし、日本における著作権保護期間を満了(著者の没後50年)した書籍を収録しており、書籍一覧から全ページを無償で閲覧できる。2015年度は、フランス語の書籍を中心に新たに34冊の書籍を追加し、アーカイブ収録頁数は約70000頁に増加した。ただし著作権保護期間は今後改正される可能性もあることから、新規のデジタル化については著作権法の状況を見ながら進めることになる。

②プロジェクトの様々な研究成果は、ディジタル・シルクロードで公開している。今年度の成果としては、Digital Criticism Platform(DCP)を紹介したい。これは、地図情報を対象としたマッピニング、そして画像情報を対象としたフォトフィット(未公開)やメモリーハンティングなどを統合し、スタイン地名データベースなどの遺跡データベースに関するエビデンスを蓄積するための情報基盤である。現在は基本的なコンポーネントの構築が完了した段階にあり、2016年度中には試験運用を開始したいと考えている。

本プロジェクトではデジタル文化遺産の実空間展示の試みとして、東洋文庫ミュージアムへの展示協力を行っている。本年度は企画展『大地図展 フェルメールも描いたブラウの世界地図』にデータ提供などの面で協力した。企画展では、展示室内に国立情報学研究所のサーバと接続したインターネット端末や映像端末を設置し、イマジナリー・ミュージアム、地図で探るシルクロード(3次元地図)、写真でつなぐシルクロード、今昔写真、ディジタル・シルクロード・キッズなど、本展示に関係するページを閲覧できるようにしている。

2014年成果報告

国立情報学研究所が推進するディジタル・シルクロード・プロジェクトは、2001年にユネスコとの協力により、文化とデジタル情報技術の融合による新たな視点でのシルクロード研究と文化遺産保存を目指して開始したプロジェクトである。2003年には科学研究費成果公開促進費に基づく財団法人東洋文庫との共同研究が始まり、今年で開始から14年目、「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」作製12年目を迎える。

活動状況:現在のプロジェクトの主要テーマは①「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」に収録するシルクロード探検隊報告書の充実、②デジタル化した資料を用いた人文科学研究への新しいアプローチ方法の研究である。

①「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」は、東洋文庫が所蔵しており、シルクロード研究者が必要とする基礎資料で、一般的には閲覧が困難な貴重書をインターネット上で多言語インターフェイスを用いて全文無償提供することで、学術基盤データベースを作成することを目的とし、日本における著作権保護期間を満了(著者の没後50年)した書籍を収録する。本アーカイブには、2012年までの10年間に合計203冊、約60000頁が収録されており、書籍一覧から全ページを無償で閲覧できるだけでなく、電子的なOCR結果を用いた全文検索機能も提供している。また、収録済みの書籍へはメタデータを附与し、データベースの閲覧利便性の向上を計っている。特に、画像ファイルと書籍のページを対応させた「ページ番号」、目次データから当該ページに飛べるリンクを設定した「目次」などのデータを整備し、様々な方法で書籍データにアクセスできるようにするとともに、急ぎの場合であってもストレスなく閲覧できる環境を整えている。

②プロジェクトの様々な研究成果は、ディジタル・シルクロードで公開している。今年度の成果としては、2010年以来作成を続け、今年度に完成したスタイン地名データベースを紹介したい。「スタイン地名データベース」は、オーレル・スタインが作成したInnermost Asia地図に記された地名を抜き出して位置をデータベース化することで、スタインが記録した地名を網羅的に検索可能とするもので、基本的な参照文献はスタイン自身が作成した地名索引である”Index of Local Names.”, Memoir on Maps of Chinese Turkistan and Kansu, Dehra Dūn, 1923を使用している。この索引はInnermost Asia地図に記された5528件の地名を収録しているが、網羅的ではなく、特に遺跡名は一部しか収録されていなかった。そこで本プロジェクトでは地図にはあって索引にはない地名を独自に追加し、約800の地名を追加することで、遺跡名を含めた網羅的な地名索引を作成した。さらに、全ての地名に地図上の位置情報を付与し、地図上の当該位置に移動できるようになっている。

この他、本年度は記憶の場所を探して記録するモバイルアプリ、「メモリーハンティング(メモハン)」を用いた古写真の同定を行った。メモハンの基本的な機能はスマホのカメラのファインダー上に過去の写真を半透明で重ね、現在の風景と構図を合わせてシャッターを押すというもので、実世界のいまを写真に記録し、過去の写真にリンクすることができる。本年度は、メモハンを用いたイベントを開催し、明治・大正期の東京古写真の同定を行うとともに、北京においても古写真同定のテストを行い、華北交通株式会社撮影の約70~80年前の古写真を対象に、現在でも当該位置が同定できることを確認した。

本プロジェクトではデジタル文化遺産の実空間展示の試みとして、東洋文庫ミュージアムへの展示協力を行っている。本年度は企画展『もっと知りたい!イスラーム展』にデータ提供などの面で協力した。企画展では、展示室内に国立情報学研究所のサーバと接続したインターネット端末や映像端末を設置し、イラン・バム城塞に関する各種の地図や写真・映像などを閲覧できるようにしている。

このほか、シルクロード各地域の音楽文化や楽器、「シルクロードの音楽」の全体像などについて説明するウェブサイトDSRシルクロードの音楽を開設した。

2013年成果報告

国立情報学研究所が推進するディジタル・シルクロード・プロジェクトは、2001年にユネスコとの協力により、文化とデジタル情報技術の融合による新たな視点でのシルクロード研究と文化遺産保存を目指して開始したプロジェクトである。2003年には科学研究費成果公開促進費に基づく財団法人東洋文庫との共同研究が始まり、今年で開始から13年目、「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」作製11年目を迎える。

活動状況: 現在のプロジェクトの主要テーマは①「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」に収録するシルクロード探検隊報告書の充実、②デジタル化した資料を用いた人文科学研究への新しいアプローチ方法の研究である。

①「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」は、東洋文庫が所蔵しており、シルクロード研究者が必要とする基礎資料で、一般的には閲覧が困難な貴重書をインターネット上で多言語インターフェイスを用いて全文無償提供することで、学術基盤データベースを作成することを目的とし、日本における著作権保護期間を満了(著者の没後50年)した書籍を収録する。  本アーカイブには、2012年までの10年間に合計203冊、約60000頁が収録されており、書籍一覧から全ページを無償で閲覧できるだけでなく、電子的なOCR結果を用いた全文検索機能も提供している。

2013年度は新たな書籍の収録はなかったが、すでに収録済みの書籍へのメタデータ附与を継続し、データベースの閲覧利便性の向上に務めている。特に、画像ファイルと書籍のページを対応させた「ページ番号」、目次データから当該ページに飛べるリンクを設定した「目次」などのデータを整備し、様々な方法で書籍データにアクセスできるようにするとともに、急ぎの場合であってもストレスなく閲覧できる環境の整備を目指している。

②プロジェクトの様々な研究成果は、ディジタル・シルクロードで公開している。今年度の成果としては、2013年11月に公開したカラホージャ地名データベースを紹介したい。本データベースは、1902-1903年に行われたドイツ・トルファン探検隊のグリュンウェーデルが作製したカラホージャ(高昌故城)地図Planskizze von Idikutschariと、調査報告書に記された地名を抜き出して位置をデータベース化することで、グリュンウェーデルが記録したカラコージャの地名を検索可能にしている。現在では、遺構ごとの基本データや遺構現況の写真を閲覧できるほか、遺構の実際の位置を検索することも可能になっている。

この他、本プロジェクトではデジタル文化遺産の実空間展示の試みとして、東洋文庫ミュージアムへの展示協力を行っている。「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」の素材画像を組み合わせ、絵はがきを制作し持ち帰ることができる、「遷画~シルクロード」用の端末を館内に設置しており、2011年10月の開館以来の体験者が1800人以上となった。また本年度は2つの企画展にもデータ提供などの面で協力した。

さらに、文化遺産の災害復興を支援する試みとして、2003年12月の大地震で崩壊したイラン・バム遺跡の仮想空間上での3次元復元を続けてきたが、10年間の研究成果により主要部分の3次元モデルがこのほど完成を迎え、2014年2月にテヘラン大学にて成果公開シンポジウムを開催した。現在は物理的な遺跡の復元に3次元モデルを活用していく方法を検討中である。

2012年成果報告

国立情報学研究所が推進するディジタル・シルクロード・プロジェクトは、2001年にユネスコとの協力により、文化とデジタル情報技術の融合による新たな視点でのシルクロード研究と文化遺産保存を目指して開始したプロジェクトである。2003年には科学研究費成果公開促進費に基づく財団法人東洋文庫との共同研究が始まり、今年で開始から12年目、「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」作製10年目の節目を迎える。

活動状況: 現在のプロジェクトの主要テーマは①「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」に収録するシルクロード探検隊報告書の充実、②デジタル化した資料を用いた人文科学研究への新しいアプローチ方法の研究である。

①2012年度には、シャヴァンヌによる中国の考古学的調査、ヘディンのチベット踏査報告、『東方見聞録』の各種エディション、さらにリヒトホーフェンの名著China等を含む53冊の書籍を新たにアーカイブに追加し、合計203冊、約60000頁が閲覧可能になった。2011年度以前に収録した書籍も含め、書籍一覧から無償で閲覧できる。「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」は、東洋文庫が所蔵しており、シルクロード研究者が必要とする基礎資料で、一般的には閲覧が困難な貴重書をインターネット上で多言語インターフェイスを用いて全文無償提供することで、学術基盤データベースを作成することを目的とし、日本における著作権保護期間を満了(著者の没後50年)した書籍を収録する。今年度のアーカイブ収録書の特徴は、これまで集中的に収録してきたシルクロード探険隊報告書だけでなく、研究書や敦煌吐魯番文書等で普遍的な価値を持つ著作なども加え、データベースの利用価値を高めていく方向性を示したことである。

②プロジェクトの様々な研究成果は、ディジタル・シルクロードで公開している。今年の成果としては、2013年2月28日~3月1日に東洋文庫と国立情報学研究所で行われたデータが語るシルクロード史:DSR国際シンポジウム2013を紹介したい。本シンポジウムは、データベースが歴史研究に対してどのようなポテンシャルを持ちうるのかを検討し、データベース作成の課題を明らかにすることを目的として開催した。当日は50名を超える参加者を得て、データベースを用いた歴史学研究に関する新しい方法の提案、データベース化に際しての課題など、歴史学・考古学・文献学・民俗学・情報学的視点からの様々な提案が行われ、データベースを用いた研究の方向性が提示された。今後は、歴史研究に有効なデータベースの作成や、画像資料を利用した研究方法の提案が課題となる。

2011年成果報告

国立情報学研究所が推進するディジタル・シルクロード・プロジェクトは、2001年にユネスコとの協力により、文化とデジタル情報技術の融合による新たな視点でのシルクロード研究と文化遺産保存を目指して開始したプロジェクトである。2003年には科学研究費成果公開促進費に基づく財団法人東洋文庫との共同研究が始まり、今年で開始から11年目を迎える。

現在のプロジェクトの主要テーマは①「『東洋文庫所蔵』貴重書 デジタルアーカイブ」に収録するシルクロード探検隊報告書の充実、②デジタル化した資料を用いた人文科学研究への新しいアプローチ方法の研究である。

①2011年度には、イラン・モンゴル・チベットなどを扱う34冊の書籍を新たにアーカイブに追加し、合計150冊、約40000頁が閲覧可能になった。2010年度以前に収録した書籍も含め、書籍一覧から無償で閲覧できる。「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」は、東洋文庫が所蔵しており、シルクロード研究者が必要とする基礎資料で、一般的には閲覧が困難な貴重書をインターネット上で多言語インターフェイスを用いて全文無償提供することで、学術基盤データベースを作成することを目的とし、日本における著作権保護期間を満了(著者の没後50年)した書籍を収録する。今年は、これまで集中的に収録してきたスタインやヘディンなどの著作のほか、コルディエ、コンラディ、シャヴァンヌ、ハイケル、アッカン、デイジー、コズロフ、セミョーノフらの著作も加えて、データベースの充実を図った。

②プロジェクトの様々な研究成果は、ディジタル・シルクロードで公開している。中でも最近公開したシステムとして、ここではMappinning(マッピニング)を紹介したい。このシステムは、シルクロード探険隊の調査遺跡を効率的に発見することを目的とし、探険隊が作成した地図とGoogle Mapsの衛星画像とを「ピンを刺すように」対応付けることができる。任意の場所でピン止めすると、その周囲では誤差が解消された状態でスタイン地図と衛星画像を比較できるようになるため、その周辺の遺跡の探索が劇的に容易になる。このシステムはウェブサイト上で誰でも利用できるようになっているので、本誌の読者が現地調査に行く前に、スタインの調査地点と衛星画像を確認するような使い方も可能である。

2010年成果報告

国立情報学研究所が推進するディジタル・シルクロード・プロジェクトは、2001年にユネスコとの協力により、文化とデジタル情報技術の融合による新たな視点でのシルクロード研究と文化遺産保存を目指して開始したプロジェクトである。また2003年には科学研究費成果公開促進費に基づく財団法人東洋文庫との共同研究も始まり、今年で開始から10年目を迎える。

活動状況: 現在のプロジェクトの主要テーマは(1)「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」に収録するシルクロード探検隊報告書の充実、(2)デジタル化した資料を用いた新しい人文科学研究の開拓である。

(1) 2009年・2010年に収録した書籍は以下の5タイトルである。2008年度以前に収録した書籍も含めて、書籍一覧から無償で閲覧可能である。

〔ロシア〕
1. Radloff, Friedrlich Wilhelm Atlas der Alterthümer der Mongolei      1
2. Radloff, Friedrlich Wilhelm Aus Siberien             1~2
3. Przhevalskii, Nikolai Mikhailovich Iz Zaisana Cherez Khami v Tibet i na Verkhov'ya Zheltoi reki 1
〔フィンランド〕
4. Mannerheim, Carl Gustaf Emil Across Asia 1
〔スウェーデン〕
5. Hedin, Sven Anders Central Asia Atlas             1

「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」は、東洋文庫が所蔵しており、世界中のシルクロード研究者が必要とし、閲覧が困難な貴重書をウェブ上で全文無償提供することで、世界中のシルクロード研究者に研究の便宜を図ることを目的としている。これらの書籍は日本の著作権保護法に則り、著作権保護期間(著者の没後50年)が満了している書籍を対象とする。そのため、「『東洋文庫所蔵』貴重書デジタルアーカイブ」は、欧米の研究者を中心として、研究用の基礎データベースとしての位置を確立している。また、本データベースはOCR読み取り結果を用いた全文検索機能を提供しているが、OCR読み取り結果には誤りが多いため検索漏れには常に注意する必要がある。そこで大英図書館の国際敦煌プロジェクト (International Dunhuang Project, IDP)とも協力しながら、校訂テクストの作成も試みている。

(2)プロジェクトの研究成果は、ウェブページ上の公開だけでなく、学術雑誌上でも刊行している。また、大英図書館の国際敦煌プロジェクト(International Dunhuang Project, IDP)のほか、北京大学・清華大学・敦煌研究院などとも共同研究を行っており、2009年3月・2010年3月・2010年7月に相互の研究成果報告のためのワークショップを開催した。